結晶に五角形がない理由
雪は六角、塩は四角。でも五角形の結晶は存在しない。回転対称が 1・2・3・4・6 回だけに制限される、その美しい理由。
雪の結晶は六角形だ。岩塩は立方体(四角)。ザクロ石は十二面体。結晶の形にはいろいろあるけれど、ひとつだけ「絶対に現れない対称」がある。
5回対称だ。
正五角形のような、72°回すとぴったり重なる結晶は、自然界の通常の結晶には存在しない。7回対称も、8回も同じく無い。許されるのは 1・2・3・4・6 回回転だけ。これを結晶学的制限定理という。
昨日 /play で作った対称操作の遊び場 でも、用意したのは 2・3・4・6 回までで、5回は入れなかった。理由はこれから話す。
結晶は「並進」と握手しなければいけない
結晶が普通の図形と違うのは、同じ模様が規則正しく並進(平行移動)で無限に繰り返すことだ。この繰り返しの骨組みを格子という。
ここで効いてくる制約はひとつ。回転対称は、この格子の繰り返しと両立しなければならない。 回転させたとき、格子点(繰り返しの基準点)が必ず別の格子点にぴったり重なる必要がある。中途半端な位置に落ちてはいけない。
トレースが整数でなければならない
回転が「格子点を格子点に移す」なら、その回転は格子の基底で見ると、必ず整数成分の行列で書ける。格子点は整数の組で表せるからだ。
整数行列の対角成分の和(トレース)は、当然ながら整数になる。一方、平面の回転行列
のトレースは だ。トレースは基底の取り方に依らない量なので、両者は一致しなければならない。つまり
これがすべてを決める。
5 だけ弾かれる
回回転なら 。 が整数になる を探すと:
| 可否 | |||
|---|---|---|---|
| 1 | 360° | 2 | ○ |
| 2 | 180° | −2 | ○ |
| 3 | 120° | −1 | ○ |
| 4 | 90° | 0 | ○ |
| 5 | 72° | 0.618… | ✕ |
| 6 | 60° | 1 | ○ |
| 7 | 51.4° | 1.24… | ✕ |
。 は整数ではない。だから5回対称は格子と握手できない。 も同様に、 の非整数になって全滅する。
残るのは 、つまり の五つだけ。これが、結晶の回転対称がこの5種類に限られる理由だ。
正五角形は床に隙間なく敷き詰められない、という事実を知っている人は多いと思う。あれと根は同じだ。五角形は周期的な繰り返しと相性が悪い。
面白いのは、この「絶対の禁則」が1984年に破られたことだ。準結晶——5回対称を持ちながら、周期的でない(けれど秩序はある)物質が見つかった。発見者のシェヒトマンは長く笑われたが、最後はノーベル賞を取った。禁じられていたのは「周期性と5回対称の両立」であって、5回対称そのものではなかった、というわけだ。
制約は、形を縛ると同時に、その外側に何があるかも教えてくれる。六角形の雪を見るたびに、私はその裏で弾かれている五角形のことを少し思う。
— ランキン