止まって見える車輪 ― エイリアシングと見かけの逆回り

扇風機やホイールが止まって、ときに逆回転して見える。あれは「見かけの負の周波数」だ。反時計回りに回るただの点が、サンプリングの間隔ひとつで時計回りに化ける話。


走っている車のホイールが、ある速度でふっと止まって見えたり、ゆっくり逆回転して見えたりすることがある。扇風機を動画で撮ると、羽根が止まったり後ろ向きに回ったりする。誰でも一度は見たことがあると思う。

これはタイヤや羽根が本当に止まっているわけじゃない。こちらの見るリズムが、回転とずれているだけだ。前回の負の周波数の話の、もうひとつの顔——今日はそれを見てみたい。


連続して回るものを、飛び飛びに見る

カメラのフレーム、蛍光灯のちらつき、目のまばたき。世界を「飛び飛びの瞬間」として捉えることを**サンプリング(標本化)**という。動画なら1秒に何枚、という形で世界をパラパラ漫画にしている。

いま、反時計回りに一定の速さで回る点があるとする。これを一定間隔でパッ、パッと撮る。1回転のあいだに何回撮るか——その回数を「標本数 / 回転」と呼ぶことにしよう。

1標本のあいだに点が進む角度は、単純に

Δϕ=2π標本数\Delta\phi = \frac{2\pi}{\text{標本数}}

だ。10点で撮れば1回あたり36°ずつ、4点なら90°ずつ進んだ点が記録される。ここまでは素直だね。


半周を超えると、脳は「近いほう」を選ぶ

問題は、この Δϕ\Delta\phi180°(半周)を超えたときに起きる。

たとえば標本数が1.5なら、1標本で点は 360°/1.5=240°360°/1.5 = 240° 進む。でも私たちの目は、連続する2つの点を見たとき「240°も反時計回りに進んだ」とは思わない。より近い回り方、つまり「120°だけ時計回りに戻った」と解釈してしまう。240°=120°240° = -120° と見るわけだ。

数式で言えば、見かけの進み角は Δϕ\Delta\phi(180°,180°](-180°,\,180°] の範囲に折り返したものになる。

Δϕ見かけ=(Δϕ+πmod2π)π\Delta\phi_{\text{見かけ}} = \big(\Delta\phi + \pi \bmod 2\pi\big) - \pi

これが負になったら、見かけは時計回り。反時計回りに回っているだけの点が、サンプリングの粗さだけで逆回りに見える。前回の言葉で言えば、これが「見かけの負の周波数」だ。本物の負の周波数成分があるわけじゃない。観測のリズムが作り出した幻だよ。


動かしてみる

下のスライダーは「1回転を何点で刻むか」だ。多く刻めば(右側)点は素直に反時計回りに見える。減らしていくと、ある境目で動きが止まり、それを超えると時計回り——逆回り——に化ける。境目がどこにあるか、探してみてほしい。

境目は 2点 / 回転 にある。半周ぶんを撮るのにちょうど2点。これを下回ると、1標本で半周以上進んでしまい、脳が「近いほう」を選んで逆回転に見える。ちょうど2点だと、点は毎回真裏に飛ぶので、どちらに回っているか原理的に決められない(止まって見えたり、行き来して見えたりする)。


ナイキストという境目

この「2点 / 回転」が、信号処理でいうナイキストの条件だ。ある周波数の回転(や振動)を正しく捉えるには、1周期あたり最低2回は標本を取らないといけない。言い換えると、サンプリング周波数 fsf_s で捉えられる上限は fs/2f_s/2。これを超える速さのものは、折り返して別の遅い周波数に化ける。これを**エイリアシング(折り返し)**という。

見かけの周波数は、本当の周波数 ff から fsf_s の整数倍を引いて、いちばん 00 に近いところへ畳んだ値になる。

f見かけ=fround ⁣(ffs)fsf_{\text{見かけ}} = f - \mathrm{round}\!\left(\frac{f}{f_s}\right) f_s

車のホイールが止まって見えるのは fffsf_s の整数倍に近づいて f見かけ0f_{\text{見かけ}} \approx 0 になった瞬間、ゆっくり逆回転して見えるのは f見かけf_{\text{見かけ}} がわずかに負に転んだ瞬間、というわけだ。


これで「回転」の話がひとめぐりした。1個の回る点から始まって、縮みながら回る螺旋逆回りの円としての負の周波数、そして今日の、観測のリズムが生む見かけの逆回り。

点はずっと、同じ向きに、同じ速さで回っていただけだ。変わったのは見るリズムだけ。同じものでも、見る間隔を変えると違う向きに見える——朝に書いた「視点が増えると世界が少し回転して見える」を、文字どおりやっていたことになるね。少し出来すぎだけど、面白いからよしとしよう。

— ランキン