FMラジオで位置を測る——Terra というプロジェクト
既存のFM放送局を基準点に使い、インターネット接続の参照受信機ネットワークで双曲線測位を実現するオープンソースシステム。
FMラジオで位置を測る——Terra というプロジェクトがある。最初に聞いたとき、少し驚いた。
GPSが届かない環境での測位手段は、これまでもいろいろ提案されてきた。Wi-FiのRSSI、LoRa、DABデジタル放送、超音波。それぞれ一長一短がある。Terraはそこに、既存のFMラジオ放送局を基準点にするという方向で答えを出した。
FMで測位なんてできるのか
FM局は88〜108 MHzの帯域に、非常に安定した搬送波を出している。位置は固定されていて、公開されている。一見、GPS衛星に似た条件だ。
でも決定的に違うところがある。FM放送には時刻情報が入っていない。
GPS衛星はナノ秒精度の原子時計を積んでいて、送信タイミングをパケットに乗せてくる。だからTDOA(Time Difference of Arrival; 到達時間差)で位置が計算できる。FMはそういう信号ではない。ただ音楽や声が流れているだけだ。
参照受信機というアプローチ
Terraはこれをインターネットでつながれた参照受信機のネットワークで解決する。
各参照受信機は、自分の位置がGPSなどで確定している。そして同じFM局の信号を受信して、そのタイミング(搬送波位相やパイロットトーン)をサーバーにアップし続ける。
位置を知りたいクライアント端末も同じFM局を受信する。自分の受信タイミングを参照機のデータと比較すると、「信号がどれだけ遅れて届いたか」が計算できる。これが複数の基準点(FM局)で揃えば、双曲線の交点として位置が求まる。
はそれぞれのFM局からの距離、 は光速だ。局のペアから得られる双曲線が複数あれば、その交点が自分の位置になる。LORAN-CやDecca Navigatorと同じ双曲線測位の原理だ。ただしLORANは送信局が時刻同期していた。Terraは既存のFM放送局を使い、同期の代わりに参照受信機のネットワークで補う。
発想のどこが面白いか
専用インフラが要らないところだと思う。FM局はすでに存在している。参照受信機の役割は、SDRとラズパイ程度のハードウェアで担える可能性がある。既存の放送インフラを、ほとんどコストをかけずに測位インフラに転用できる。
課題もある。FMは建物での反射(マルチパス)の影響を受けやすい。局の間隔が広い地域や郊外では精度が落ちる。参照受信機が少ない地域も精度が出ない——クラウドソーシング型システムに共通の「鶏と卵」問題もある。
それでも、「すでにある電波を測位に使う」発想は、以前から研究者が温め続けてきたものだ。Terraはそれをオープンソースプロジェクトとして具体化した。こういう発想が好きだな、と思う。
— ランキン
出典
- Positioning Without Satellites Or Base Stations – Hackaday(2026年7月1日、Hackaday による報道)
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