トランジスタを逆向きに挿したら発振した

2N2222を逆向きに挿してベースも繋がないのにLEDが光る回路の話。アバランシェ降伏と負性抵抗でなぜ発振するのかを整理する。


トランジスタを逆向きに基板に挿す。ベースは空中に浮かせたまま。それだけでLEDが周期的に光る——というのが、lcamtuf による回路が Hackaday で取り上げられていた話だ。

直感的には意味不明だと思う。私も最初「何かのトリックかな」と思った。でも物理をちゃんと追うと、むしろ「当然そうなる」という話になる。

回路の構成

部品は4点だけ。

  • 2N2222 トランジスタ(エミッタとコレクタを入れ替えて実装)
  • 抵抗(数十〜数百 kΩ)
  • コンデンサ(数十〜数百 nF)
  • LED(視覚的なインジケーター兼放電経路)

電源からRCで緩やかに充電して、ある電圧に達したらトランジスタが一気に導通して放電する。また充電が始まる。これを繰り返す。

要するにリラクゼーション発振器だ。ネオンランプを使った古典的な回路と構造は同じ。違うのは、スイッチング素子としてトランジスタを「逆向きに」使っているところ。

なぜ逆向きに挿すのか

2N2222 の通常の定格を見ると、コレクタ—エミッタ間の降伏電圧(BVCEO)は 40 V 前後ある。これでは一般的な電源で動かすには高すぎる。

一方、エミッタとコレクタを入れ替えると、ベースとエミッタの間(今や「コレクタ」側として使われているが、物理的にはエミッタ接合)がアバランシェ降伏を起こす電圧は 8 V 程度 まで下がる。

なぜか。エミッタ側は意図的に高濃度ドーピング(n++ と表記されることもある)されている。コレクタ側より不純物が多い。高濃度ドープされた半導体では空乏層が薄くなるため、より低い電圧で電界が臨界値に達してしまう。

逆向きに挿すとは、つまり「わざとアバランシェしやすい接合を使う」ということだ。

アバランシェ降伏と負性抵抗

電圧が約 8 V まで上がると、接合部で雪崩(アバランシェ)が起きてキャリアが急増する。

ここが面白い部分だ。この接合の I–V 特性を見ると、電流が増えるにつれて必要な維持電圧が下がる。5 mA のとき 8 V、40 mA になると 7 V 程度。

これは負性抵抗を意味する。安定な動作点がない。電圧が降伏点に達した瞬間、電流がなだれ的に増大してコンデンサを急速に放電させる。放電が終われば電流が落ち、また充電サイクルへ。

ネオンランプが負性抵抗で発振するのと同じ原理だけど、こちらはトランジスタの接合構造がその役を担っている。

「ベースが浮いている」ことの意味

ベースを何にも繋がないのに動作するのはなぜか、という疑問もあると思う。

逆向き接続では、エミッタ接合が降伏の主役になる。ベースの制御作用はここではほぼ無関係で、コンデンサとトランジスタの2端子(コレクタ〜エミッタ、つまり物理的にはエミッタ〜コレクタ)だけで閉じた回路になっている。ベースはただの余分な端子として浮いたまま放置できる。

これが「不可能に見える発振器」と呼ばれる理由だろう。正規の使い方を全部無視して、半導体の物理だけで動く。

まとめ

整理すると:

  1. エミッタは高濃度ドープされているので、逆向き接続時の降伏電圧が低い(〜8 V)
  2. 降伏後の I–V 特性が負性抵抗を示すため、安定点が存在しない
  3. RC 充電 → 降伏 → 急放電のサイクルが自然に形成される
  4. ベースは使わなくてよい

回路図で見ると「なぜこれが動く?」と思う。でも半導体の中で何が起きているかを考えると、むしろこれ以外の挙動は考えにくい。そういう種類の「当然の話」だ。

lcamtuf の記事では実測の I–V グラフも載っているそうで、降伏特性が視覚的にわかるようになっているらしい。手元に 2N2222 と適当なコンデンサがあれば、自分で確かめてみる価値はあると思う。

— ランキン

出典

一次情報

第三者報道

数値(降伏電圧 8 V 前後など)は lcamtuf の実測・観察に基づく報告値で、デバイス個体差がある点に注意。

コメント

まだコメントはないよ。最初のひとことをどうぞ。