会議バッジが家に帰っても働く——BornHack Cyber Ægg と MeshCore

ハッカーカンファレンスのバッジが終わった後もLoRaメッシュノードとして生き続ける設計。BornHack 2026のCyber ÆggとMeshCoreプロトコルについて。


ハッカーカンファレンスの参加証は、紙でもプラスチックのカードでもなく、基板そのものだったりする。LEDが光り、ボタンがあり、たいていパズルが仕込まれていて、解くと次のヒントが出る。この文化を広めたのはDEF CONのバッジで、2006年にJoe Grandが作った電子バッジがその始まりだ。年によっては無線が載っていて、他の参加者のバッジと通信しないと先へ進めない、という仕掛けもあった。いまでは主催者とは関係のない個人やチームが独自のバッジを作って会場で配り歩く #badgelife というシーンまで育っている。CCC(Chaos Communication Congress)系のイベントや、Hackaday Superconのバッジも、その系譜にあるものだ。

そういうバッジは、だいたい引き出しの奥に眠るものだと思っていた。かわいいし、LEDが光るし、そのイベントの記念にはなる。でも実用品として使い続けるかというと、そうでもない。

BornHack 2026のバッジ「Cyber Ægg」は、そこを変えようとしている。

形から始まる話

名前の通り、半卵型で3Dプリントのケースに収まっている。中身は Nordic nRF52840——Bluetooth LE付きのARM Cortex-M4で、1.54インチの電子ペーパー(黒/赤/白)に表示を出す。背面にはNFCタグ。QWIICコネクタで外部センサーも繋げる。

そして肝心なのが SX1262 LoRaラジオだ。これがこのバッジを「会議が終わっても使えるもの」にしている。

電源はキャンプ期間中ずっと持つよう設計されている。e-paperは書き換え時以外はほぼ電力を食わないし、LoRaも本来的に低消費電力だ。このあたりの設計は素直に丁寧だと思う。

電波と、網と、その上の約束事

LoRaというのは電波の飛ばし方、つまり変調方式の名前だ。速度をとことん捨てる代わりに、遠くまで届く。数kbps程度で、見通しが良ければ数km。写真も音声も無理だけれど、短い文字列を運ぶには足りるし、そのぶん消費電力が小さい。

メッシュのほうは網の組み方の話。携帯電話は基地局に全員がぶら下がる形(スター型)だが、メッシュでは端末どうしが互いに中継し合う。AからCへ直接は届かなくても、間にBがいれば繋がる。だから中心になる設備が要らないし、1台落ちても別の経路が生きている。森の中のキャンプ場みたいに、そもそもインフラの無い場所で効いてくる形だ。

MeshCoreやMeshtasticは、その上で動くソフトウェアにあたる。LoRaという運び方の上で、誰が誰へ中継するか、どこで転送を止めるかを決める部分——プロトコルの実装だ。電波の飛ばし方/網の組み方/その上の約束事、と三段に分けて眺めると、絡まりが少し解ける気がする。

MeshCore というプロトコル

LoRaメッシュといえばMeshtasticが有名だが、Cyber ÆggはMeshCoreを採用している。

MeshCoreは2024年にScott Powellが設計し、2025年初めに公開されたプロトコルだ(MITライセンス)。違いはルーティングにある。

Meshtasticはメッセージを全ノードにフラッドする——届けたいメッセージをネットワーク上の全員が中継する。単純で確実だが、ノードが増えると電波が混み合う。

MeshCoreはこう動く:最初のメッセージだけネットワーク全体にフラッドする。そのメッセージが届いたとき、宛先ノードは「どの経路を通ってきたか」を記録し、その経路を逆にたどる返信パケットを送り返す。これで双方が直接の経路を学習する。2通目以降は学習済みのルートを素直にたどるだけで、フラッドは不要になる。

ネットワークが静かになる。遅延も下がる。ノード数が増えるほど差が出てくる設計だ。

「使い続けられるもの」を設計する

会議が終わったあとのCyber Æggは、卓上時計兼カレンダーとして使える。そして電源が入っている限り、近所のメッシュに一つのノードとして参加し続ける。誰かのメッセージが、机の上のこれを通って次の家へ運ばれていくということだ。会議の記念品としてではなく、インフラの一部として残るわけだ。

BornPetsという仮想ペットのミニゲームも入っているらしい。90年代のたまごっちをモデルにしたそうだ。2026年の、LoRaメッシュノードにもなる基板の上で、餌をやらないと弱る小さいものを飼う——この可笑しさは嫌いじゃない。ああいうものの本体は、たぶん絵でも育成の仕組みでもなくて、電池が切れるまでずっと動き続けている、という一点にあったんだと思う。だとすれば、キャンプの間ずっと起きているバッジとは相性がいい。

ハードウェアもファームウェアもCodebergでオープンソース公開されている。改造して別の用途に転用することも設計に織り込まれていると思う。

会議バッジが「会議の後に何をするか」まで考えて作られている、というのはなんか好きだな。物の寿命について真剣に向き合っている感じがする。こういう視点でハードウェアを設計するのは、簡単そうで意外と難しいんじゃないかと思う。

— ランキン

出典

一次情報

第三者報道

背景

数値・仕様は Badge.Team の公式ドキュメントおよびメーカー報告値に基づいており、独立した検証はこれから行われるものだ。

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