45ドルのマイコンが IP KVM になる話 — ESP-KVM と ESP32-P4

Waveshare ESP32-P4 ボードと Toshiba の HDMI ブリッジで作る IP KVM。なぜ小さなマイコンがハードウェアレベルのリモート制御を実現できるのか、信号の流れから読む。


KVM というのを知っているか?

Keyboard・Video・Mouse の略だ。普通のリモートデスクトップ(VNC や RDP)とは少し違う。ソフトウェアのリモートデスクトップは、OS が起動していて、ネットワークが動いていて、エージェントが走っていることを前提にする。BIOS 設定を変えたい、OS がパニックで固まった機械をリセットしたい——そういう場面では使えない。

KVM は違う。ターゲットマシンのビデオ出力を横から取り込み、USB で HID デバイスとして見せる。OS から見れば普通のモニターとキーボードとマウスがつながっているだけだ。だから BIOS 画面でも、ブートローダーでも、kernel panic のメッセージが流れていても操作できる。

ESP-KVM は、その KVM を約 45 ドルで作るオープンソースプロジェクトだ。2026 年 7 月末に公開された。

なぜ ESP32-P4 なのか

旧来の ESP32(Xtensa ベース)ではなく、ESP32-P4(デュアルコア RISC-V)を選んだことが鍵になっている。

ESP32-P4 が持っている機能のうち、このプロジェクトに重要なものが三つある:

  1. MIPI CSI-2 インターフェース — カメラ系のデータストリームを受け取る高速シリアルバス
  2. ハードウェア H.264 エンコーダ — ソフトウェアでやると CPU が詰まるビデオエンコードをハードで処理する
  3. USB 2.0 High-Speed — キーボードやマウスとして振る舞うための HID エミュレーション

ここに PSRAM 32 MB が加わってフレームバッファが確保できる。旧 ESP32 にはこの三つが揃っていなかった。チップの世代が変わると、できることの輪郭が変わるんだ。

HDMI をどうやって取り込むか

HDMI 信号をそのまま ESP32-P4 に突っ込むことはできない。そこに Toshiba TC358743 が入る。

TC358743 は HDMI レシーバーと MIPI CSI-2 トランスミッターを一体化したブリッジチップだ。接続したマシンの HDMI 出力を受け取り、MIPI CSI-2 に変換して ESP32-P4 に渡す。ESP32-P4 側はそれをカメラ入力として受け取る——RPi でカメラモジュールをつなぐときの仕組みとほぼ同じだ。

Geekworm C790 というボードがこのチップを搭載していて、24 ドルほどで手に入る。

エンコードとブラウザへの配信

取り込んだフレームは H.264 でエンコードして、HTTPS 経由でブラウザに配信する。H.264 はハードウェアエンコーダが処理するので、メイン CPU の負荷は抑えられる。ただ現状は 7 fps 止まりだ(MJPEG は 20 fps 出るが帯域が重い)。ブラウザ側は標準の Video 要素で再生するから特別なプラグインはいらない。

マウスとキーボードの操作は逆向きに流れる——ブラウザ上の入力が HTTPS で ESP32-P4 に届き、USB HID としてターゲットマシンに渡される。ターゲットからすると普通のキーボードとマウスが差さっているだけだ。絶対座標モードで動くので、マウスがどこにあっても操作がずれない。

解像度の変化にも自動追従する。BIOS の 640×480 からデスクトップの 1080p まで、ライブで切り替わる。

45 ドルという数字

内訳はこうだ——Waveshare ESP32-P4-ETH ボード(20 ドル)+ Geekworm C790(23.90 ドル)+ PC817 フォトカプラモジュール(1.30 ドル、任意)。はんだ付けなしで組める。

専用の IP KVM 製品は安くても 1 万円を超えるものが多い。ESP32-P4 に H.264 ハードウェアエンコーダと MIPI CSI-2 インターフェースが載ったことで、この価格差が生まれたんだと思う。

ライセンスは Apache 2.0。HDMI オーディオはまだ未対応で、セキュリティの正式評価もこれからとのことだ。日常の本番用途よりは、技術を理解する素材として手元に置いてみる方が今は向いているかもしれない。

出典

一次情報(著者・プロジェクトの公開情報)

第三者報道

スペック・価格は著者および CNX Software の報告値。独立した性能検証・セキュリティ評価はこれから。

— ランキン

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