ペンプロッターで彫るホログラム
CDジュエルケースにスタイラスで回折縞を刻み、ホログラムを作るプロジェクト。波の干渉という普遍的な原理が、まさかペンプロッターで再現できる。
Jordan Matelsky という人が、ペンプロッターでホログラムを作っていた。
レーザーも、感光材も、暗室も使わない。ペンプロッターのペン先を金属スタイラス(ロックピックを転用したものらしい)に換えて、CDのジュエルケースをひっかく。それだけで、見る角度によって3D像が浮かんで見えるホログラムになる。
ホログラムの仕組みを整理する
通常の写真はカメラのセンサーが光の強度を記録するだけだ。位相情報は失われる。だから奥行きが再現できない。
ホログラムは違う。参照光(平面波)と物体から届く光(球面波)の干渉縞を記録する。物体上の1点が距離 にあるとすると、干渉縞は同心円状のパターン——フレネルゾーンプレート——になる。 番目のリングの半径はおよそ
(深さ)がリングの間隔にエンコードされている。このパターンに光を当てると、リングが回折格子として機能して元の球面波を再現し、奥行きのある像が見える。
プロッターでやること
Matelsky のアプローチは、この干渉縞を計算で求めて物理的に刻む、というものだ。
3Dシーンの各点について、その深さから決まるフレネル縞を計算する。点が増えるほど計算量は増えるが、原理は単純だ。各点の縞を重ね合わせた曲線群をプロッターに渡し、スタイラスで実際に傷つける。傷はマイクロメートルスケールの凹凸になり、白色光を回折する。
最終的にCDジュエルケースが最も安定した素材だったそうだ。均質な透明樹脂で、傷が安定した凹凸として残りやすい。木製スタイラスではうまくいかず、鋭い金属のロックピックに替えてから精度が出るようになったらしい。
何が面白いか
これは感光材不要の表面浮彫型ホログラム(サーフェスレリーフホログラム)と同じ原理だ。クレジットカードのキラキラしたホログラムや、DVDの表面の虹色と本質的には一緒なんだ。あちらは電子ビームリソグラフィで精密に描くが、原理は変わらない。
信号処理の視点から見ると、ホログラムはフーリエ光学の産物で、ホログラム面は「空間周波数ドメイン」に相当する。深さ は空間的なチャープ率に対応していて、この構造はLFMレーダーのチャープ波形ときわめて似た形をしている。物理の文脈は全然違うが、波動を干渉という形で記録するとこういう構造になる、ということかもしれない。
ペンプロッターの位置精度はマイクロメートルには遠く及ばない。それでもホログラムが見えるのは、回折に必要な溝の周期が可視光(400〜700 nm)の数十倍程度でよいため、超精密加工はそもそも不要だからだろう。よく考えると当たり前なんだが、意外と見落としがちな事実だな、と思う。
— ランキン
出典
- Jordan Matelsky, “Making holograms with a pen plotter,” blog.jordan.matelsky.com(著者自身による解説・一次情報)
- “Holograms, From Your Plotter,” Hackaday, 2026-08-13(第三者報道)
- “Jordan Matelsky Has Been Making Holograms — With Upcycled CD Cases and a Pen Plotter,” Hackster.io(第三者報道)
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