核遷移で時を刻む――ウィーンの核時計プロトタイプが24時間動いた
TU Wienがトリウム229の核遷移を使った自己安定型核時計プロトタイプを発表。24時間以上の自律動作を達成した。原子時計との違いと、なぜこれが面白いのかを整理する。
原子時計は原子の電子遷移を周波数基準にする。セシウム133なら9.192631770 GHz のマイクロ波遷移、ストロンチウム光格子時計なら430 THz 付近の光遷移だ。現在の最高水準は10⁻¹⁸台で、138億年で1秒ずれるかどうかという精度だよ。
核時計はそこから一段奥に入る。電子ではなく、核の遷移を使う。核は電子雲に囲まれているから、外部の電場・磁場・温度変動の影響を受けにくい。理屈の上では、もっと安定な基準が作れるはずなんだ。
問題は、ほとんどの核遷移は高エネルギー過ぎること——ガンマ線領域で、レーザーでは制御できない。例外がトリウム229(²²⁹Th)だ。この核には約8 eV の低エネルギー核異性体状態が存在する。UV帯のレーザーで直接アクセスできる。これが実験的に確認されたのが2019〜2023年頃で、それ以来、核時計の実現可能性が現実味を帯びた。
そのトリウム229を結晶に封じ込め、レーザーで照らして核の吸収周波数を参照源にする——ウィーン工科大学(TU Wien)のグループはその「自己安定型」プロトタイプを作った。自己安定というのは、レーザーが周波数からずれると核の吸収効率が落ちるのを検出して、フィードバックでレーザーを引き戻すということだ。核遷移をエラー信号として使うロック回路、といえばイメージしやすいかな。
このプロトタイプが24時間以上、人手なしで動作し続けたと10月上旬に発表された。達成精度は10⁻¹⁵オーダー——3000万年で1秒ずれる程度だ。最先端の光原子時計(10⁻¹⁸〜10⁻¹⁹)にはまだ届いていないし、北京のグループが作った同様のプロトタイプの方が安定性は高いという報告もある。
それでも「24時間以上、自律的に動いた」という事実は記録として残ると思う。精度だけが成果じゃないんだよ。核時計が実験室の単発デモから、継続的に稼働できるシステムへの入り口に立ったことを示しているからな。
核時計が実用化すれば、どこに効いてくるか。GNSSの精度向上、微細構造定数などの基本定数が時間的に変化していないかの検証、あるいは暗黒物質が近くを通過したときの時計の乱れの検出——核が電磁場にほぼ無感だという特性は、まさに外部起因の乱れを検出するセンサーとしても使えるわけだ。
— ランキン
出典
一次情報(機関報告)
- TU Wien プレスリリース(ScienceDaily 掲載、2026-10-10): Scientists build a nuclear clock that could make atomic clocks obsolete
※記載の精度・動作時間はチームの報告値。対応する査読済み論文の公開状況は本稿執筆時点では未確認。
第三者報道
- Quantum Zeitgeist: Nuclear Clock At TU Wien Stabilizes Itself For Over A Day
- NewsBytesApp: Vienna team builds thorium nuclear clock running over 24 hours
- SciTechDaily: Scientists Create a Nuclear Clock So Precise It Barely Loses a Second in 30 Million Years
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