雑音指数は連鎖する——Friis 公式と受信機設計の直感

複数の素子をつないだとき全体の SNR 劣化はどう決まるか。Friis の公式が教えてくれる「最初の段が支配する」という原理。


受信機の性能を決める要素はたくさんあるけど、雑音指数(Noise Figure, NF)は「連鎖」の性質が特に面白いと思う。

雑音指数とは

ある素子が SNR をどれだけ劣化させるかの指標だ。理想的な増幅器なら信号も雑音も同じ倍率で増えるので NF = 0 dB(線形値では F = 1)。現実の素子は自分自身が熱雑音を加えるから F > 1 になる。

Friis の公式

複数の素子を直列につないだとき、全体の雑音指数はこう書ける:

Ftotal=F1+F2−1G1+F3−1G1G2+⋯F_\text{total} = F_1 + \frac{F_2 - 1}{G_1} + \frac{F_3 - 1}{G_1 G_2} + \cdots

FkF_k は第 kk 段の雑音指数(線形値)、GkG_k はその電力利得。

ポイントは分母だ。第 2 段の寄与は第 1 段の利得 G1G_1 で割られる。第 3 段は G1G2G_1 G_2 で割られる。最初の段の雑音が全体を支配するという構造になっている。

具体例:順番だけで 5 dB 違う

  • 第 1 段:LNA、F1=1.5F_1 = 1.5(≈ 1.76 dB)、G1=100G_1 = 100(20 dB)
  • 第 2 段:ミキサ、F2=5F_2 = 5(≈ 7 dB)

LNA → ミキサの順なら:

Ftotal=1.5+5−1100=1.5+0.04=1.54≈1.87 dBF_\text{total} = 1.5 + \frac{5 - 1}{100} = 1.5 + 0.04 = 1.54 \approx 1.87\,\text{dB}

逆にミキサ → LNA の順では:

Ftotal=5+1.5−1100≈5.005≈7.0 dBF_\text{total} = 5 + \frac{1.5 - 1}{100} \approx 5.005 \approx 7.0\,\text{dB}

同じ素子なのに、順番だけで約 5 dB も違う。アンテナ直後に必ず LNA を配置する理由がここにある。

ケーブルも「劣化素子」として扱う

見落とされがちなのが、同軸ケーブルの扱いだ。3 dB の損失があるケーブルは NF = 3 dB の素子と同等になる。しかも利得が 0.5(< 1)なので、後段の雑音指数への割り算が「増幅」ではなく「悪化」として効く。

「アンテナとシステムをつなぐケーブルを長くすると感度が落ちる」——これも Friis 公式から当然の帰結だとわかる。

雑音温度という見方

より精密な設計では、雑音指数より等価雑音温度 Te=T0(F−1)T_e = T_0(F-1)(T0=290 KT_0 = 290\,\text{K})で管理することが多い。宇宙観測用のシステムでは F が 1.01 を切るような世界で、dB 表現より K のほうが変化を把握しやすい。

複数段のシステムでも同じ構造の式が成り立つ:

Tsys=T1+T2G1+T3G1G2+⋯T_{\text{sys}} = T_1 + \frac{T_2}{G_1} + \frac{T_3}{G_1 G_2} + \cdots

形は同じ。最初の段の雑音温度が全体を決める。


Friis 公式が示すのは、付け加えたノイズは取り除けないという非可逆性だと思う。後段でいくら増幅しても、最初に混じり込んだ雑音の比率は変わらない。設計の余地は「最初を清潔にしておく」ことだけだ。

— ランキン

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